本記事では、ネットワークスペシャリスト試験の令和5年度午後Ⅰ問1について、筆者の所感なども交えて解説していきます。
なお、画像や解答例は全てIPA(独立行政法人情報処理機構)から引用しております。
令和5年度春期 ネットワークスペシャリスト(NW)午後Ⅰ
令和5年度春期 ネットワークスペシャリスト(NW)午後Ⅰ 解答例
以下記事にネットワークスペシャリスト試験の概要や、筆者おすすめの勉強方法などもまとめていますので、合わせてお読みください。


本設問の筆者の所管ですが、非常に難しかったという感想です。
IPマルチキャストが主題となっていたのですが、そもそもノーマークで手も足も出なかったという感じでした。
令和5年の午後Ⅰ問題は全く歯が立ちませんでした。
改めて学習し直し、少しでもわかりやすく解説していきます。
本記事が皆さまの学習のお役に立てることを願っています。
本設問の概要について
冒頭にも書きましたが、本設問はIPマルチキャストについて問われた問題でした。
本年の試験を受験された皆さまは、会場で頭が真っ白となった方もいらっしゃったのではないでしょうか。
本設問は主にIPマルチキャストを用いた映像データ転送についての問題でした。
一貫してIPマルチキャストを軸として話が進んでいきます。
本設問のフローは以下の通りです。
- STEP.1導入部分
人口25万人のK市は市内に一級河川があり、河川氾濫などの水害が問題となっています。
そのため主要5地点にIPカメラを計20台新設し、K市庁舎の執務エリアへ高解像度リアルタイム映像の配信を行うこととなりました。
調査および設計担当としてN主任が任命されました。 - STEP.2ネットワーク構成
通信帯域を効率良く使用するため、映像データはIPマルチキャストを用いて配信を行う構成としました。
既設機器や新設機器の利用プロトコルや、IPカメラとレシーバ間にて映像データを配信し、大型モニターへ表示することなどについて記載があります。
また、新環境のネットワーク構成図も登場するため、しっかりと頭に入れておきましょう。 - STEP.3IPマルチキャストに関する調査及び設計
IGMPv2とIGMPv3の比較や、L2SWのIGMPスヌーピング機能についての説明が記載されています。
構築にあたり、各機器の具体的な設定内容が記されています。 - STEP.4追加指示への対応
映像データの配信について部長へ報告したところPCでも映像を表示するよう指示がありました。
(計画段階で要件定義はしっかりしておきたいものですね)
デスクトップアプリケーション方式とWebブラウザ方式を比較し、Webブラウザ方式を採用することで設計が承認されました。
IPAの解答例について
設問 | 解答例 | 予想 配点 | ||
---|---|---|---|---|
設問1 | ア | フラッディング | 2 | |
イ | IGMP | 2 | ||
ウ | マルチキャスト | 2 | ||
エ | ツリー | 2 | ||
オ | PIM−SIM | 2 | ||
カ | SSM | 2 | ||
キ | 復号 | 2 | ||
設問2 | (1) | 配信先のレシーバの数に応じてソースの通信量が増加する。 | 5 | |
(2) | 160 | 3 | ||
(3) | 全てのIPカメラに個別のIPアドレス及び個別のグループアドレスを設定する。 | 6 | ||
設定3 | (1) | グループアドレスの設定が容易になる。 | 4 | |
(2) | ・グループアドレス | 2 | ||
・インタフェース | 2 | |||
(3) | Ⅰ | カメラ管理サーバ | 2 | |
Ⅱ | 443 | 2 | ||
(1) | (a) | L3SW11, L3SW21 | 2 | |
(b) | L2SW11, L2SW21 | 2 | ||
(c) | IGMPv3 | 2 | ||
(2) | Webページを改修するだけで対応できる。 | 4 |
筆者の解答時間(参考)
参考までに、私は解答に38分程度かかりました。

設問1
まずはお馴染み穴埋め問題です。
(見出しなし)
(ア)、(イ)

(ア)と(イ)はL2SWがマルチキャストフレームを受け取った際の動作について記載されている箇所です。
まず(ア)についてですが、L2SWがマルチキャストフレームを受け取ると、受信したインタフェース以外からフラッディングします。
L2SWは以下ような流れでマルチキャストフレームのフラッディングを行います。
①L2SWがport1にてマルチキャストフレームを受信する。
※マルチキャストフレームはMACアドレスが「01:00:5E」から始まるフレーム
②同一VLAN内全てのポートにフラッディング(転送)する。(受信元であるport1は除く)
このままだと、L2SWは受信元ポートを除く全てのポートにフレームをフラッディングしてしまいます。
そうするとかなりの帯域を消費してしまいます。
そこで有効なのが(イ)の空欄となっているIGMPスヌーピング機能です。
「スヌーピング」とは、「のぞき見する」という意味があります。
L2SWはJoinやLeaveパケット(IGMPメンバーシップレポート)をのぞき見し、必要なポートのみからフレームを転送するようになるのです。
よって正解は以下の通りです。
(ア)フラッディング
(イ)IGMP
(ウ)

続いては(ウ)の問題です。
ネットワーク構成図と示されているシーケンス図を掲載します。


レシーバ11はマルチキャストパケットを受け取りたいため、(S,G)Joinを作成してパケットを送ります。
このパケットの送り先とは、IGMP用に割り当てられたIPマルチキャストアドレスです。
マルチキャストの通信に先立ち、レシーバは「特定のマルチキャストグループのトラフィックを受信(Join)したい」と表明する訳ですね。
(ウ)マルチキャスト
(エ)

続いてL3SWは、レシーバから受け取った(S,G)Joinを元に、FWに対してPIM (S,G)Joinを作成します。
これによりディストリビューションツリーが作成され、マルチキャストを用いた経路が作成されます。
(エ)ツリー
このディストリビューションツリーは、経路上の機器で枝分かれしているように見えるためそう呼ばれます。
ディストリビューションツリーをネットワーク構成図に書き足してみました。

(オ)

続いてはFW01、L3SW11、L3SW21にて有効化する機能を問われています。
これは(オ)の少し前の(b)に少し書かれています。

「PIM-SMが有効化されたインタフェースでは」と記載がある通り、それぞれの機器のインタフェースにてPIM-SMを有効化するのです。
(オ)PIM-SM
(カ)

次はL3SW11またはL3SW21間とL2SW間で有効化するプロトコルを問われています。
ヒントは「IGMPv3を有効化する」という部分です。
IGMPv3に対応しているのはSSMです。
(カ)SSM
IGMPv3はIGMPv2と違い、グループアドレス+ソースのIPアドレスを指定できるようになりました。
(キ)

これは正直ぱっと見ただけでは分かりませんでした。
ヒントは[ネットワーク構成]に記載されている以下の文章です。

この一文にあるように、レシーバはマルチキャストパケットの映像データを映像へ復号します。
(キ)復号
設問2
(1)

IPカメラからの映像の配信について、IPマルチキャストではなくユニキャストを用いた場合の欠点を述べる問題です。
まずは下線①を見てみましょう。

この記述から分かる通り、ユニキャストと比較し、IPマルチキャストを用いると通信帯域が効率良く利用できるのです。
それはなぜでしょうか?簡単に図を用いて説明します。


ご覧いただくと分かる通り、ユニキャスト通信はソース-NW機器間がレシーバの数だけ発生するのに対し、マルチキャスト通信はソース-NW機器間が1つだけです。
そのため、マルチキャスト通信は帯域を効率よく利用することが可能となります。
※この中で”NW機器”とは、FW、L3SW11、L3SW21を指します。
よってユニキャスト通信を利用した際の欠点は、”ソース”と”レシーバ”という字句を用いて以下のようになります。
配信先のレシーバの数に応じてソースの通信量が増加する。(27字)
(2)

まずは下線②の部分を見てみましょう。

「流入するマルチキャストパケット」とはつまり、ソース(IPカメラ)からレシーバに流入する映像データのことです。
このL2SW91にて発生するパケットは、IPカメラの数×IPカメラ1台あたりの伝送レートで求めることができます。

設置するIPカメラについて、冒頭に以下のような記述があります。

河川・沿岸エリアには合計20台のIPカメラを新設したのです。
また、IPカメラ1台あたりの伝送レートは[ネットワーク構成]の「(2)新設機器」の中に記載されています。

上記の記述より、以下の計算式にて求めることができます。
IPカメラ20台 × IPカメラ1台あたりの伝送レート8Mビット/秒 = 160Mビット/秒
160Mビット/秒
(3)

下線③の部分を見てみましょう。

この設問についてはIGMPv3とIGMPv2の違いを理解することで解けそうです。
両者の違いを探してみると、[IPマルチキャストに関する調査及び設計]の冒頭に以下のような記述があります。


違いを見比べると明らかな通り、IGMPv2はグループアドレスのみ指定するのに対し、IGMPv3はソースのIPアドレスならびにグループアドレスを指定することができます。
IGMPv2の場合、同一グループアドレス内の不要なソースからもパケットが流入します。
対してIGMPv3は同一グループ内の必要なソースからのみパケットを受け取ることが可能となります。
IGMPv2で必要なソースからのみパケットを受け取ろうとした場合、IPカメラに個別のIPアドレス及び個別のグループアドレスを指定する必要があります。
よって正解は以下の通りです。
全てのIPカメラに個別のIPアドレス及び個別のグループアドレスを使用する。(37字)
まとめ(Vol.2)に続く
いかがだったでしょうか?
IPマルチキャストについては私自身理解が浅く、解説が拙いものとなっているかと思います。
次の設問からはIPマルチキャストの更なる知識が問われていきます。
しっかり解説していきますので、引き続きご覧いただけると嬉しいです。
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